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2016年4月 4日 (月)

狼の死

アルフレド・ド・ヴィニー 1797-1863

『狼の死』 (後半部分の抜粋訳)

1

狼が来て座った。前脚を二本立て、鍵爪を砂地に打ち込んで。

狼は負けを認めていた。不意を付かれたからだ。逃げ道は塞がれ、彼の獣道は全て押さえられていた。

今彼は燃える口中に一頭の猟犬のひくひく動く喉笛をくわえている。一番大胆だった犬の喉笛だ。

我々の銃火は狼に数発の貫通銃創を負わせていたし、頑丈で鋭い短刀も数本、十文字にその長い腹に刺さってはいた。しかし彼は犬が息絶え、彼の前で転がって死んで行くのを見届けるまで、その鋼の顎を緩めようとしなかった。

さて狼は犬から離れると我々をじっと見た。

短剣が数本柄もと迄腹に突き刺さったままだ。芝生は狼の血に染まり彼は動かない。

我々の銃は十字砲火の位置で狼を取り囲んでいた。

我々を今一度見据えてそれからうつ伏せになり、口の周りの血を舐め回し、どれほどの苦痛に耐えたかを一切教えてくれようともせず、見開いた両眼を閉じ、叫びもあげずに彼は死んでいった。

2

薬包の無くなった銃に額を持たせ掛け

考え始めてみたが私は決めかねていた、

雌狼と二匹の仔を追跡すべきか否か。

三頭とも父の帰りを待っていることだろう。それに子供がいなければあの陰鬱にも美しい寡婦は、単独で夫を大試練に向かわせることなど無かったろうと僕は信ずる。

だが彼女の義務は仔を救い、飢えに耐えるすべを教え、人間が家畜と一緒にこしらえ上げた文明世界へ入り込まぬ様にしつける事だった。森と岩場の本来の所有者である狼を、住処がもらえる、ただそれだけの報酬で、犬どもは人間の前で狩りたてるのだった。

3

ああ、人間などと大仰な名前を持ってはいるが、僕は自分たち自身を恥ずかしいと思った。なんて弱虫だ。

どの様に生を離れ苦痛を堪え忍ぶべきか、気高い動物たちよ、それを知っているのはあなた方なのだ。

人間とは地上で何者だったか、何を残したかを見るとき、沈黙だけが偉大だ。全て他は弱虫だ。

野生の旅人よ、僕には君のことがよく分かった。君の最後の一瞥は心に届いた。

狼は応えた。「できるなら魂に響く事をせよ。真剣さを失わず考え深くあれ。

森に生まれた私は、このストイックな誇りの最後の高み迄登り詰めた。呻いたり泣いたり祈ったりは、みな腰抜けだ。運命が君に割り振った道の中で、永く重い君のつとめを力一杯果たせ。

それから私のように、苦しみ、何も語らず死んでゆけ」

Alfred de Vigny (1797-1863)

La Mort du Loup

勇気、自己犠牲、克己心といった今時ははやらない言葉が浮かんでくる読後感です。40年近く前に見た『暗殺者の森』というイタリア映画を思い出しました。死地に赴く主人公が呟いていたのがダヌンツィオの詩でした。ヴィニーのこの詩とは主題が違いますが、カッコイイーと言わせる情感がありました。こういう男っぽい詩情が理解される日がまた来て欲しいものです。

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